随想「神さま、仏さま」

「神さま、仏さま」
JERC(Japanese Educational Resource Center ) News Letter No. 1253 号に掲載さ
れた、当グリークラブ副会長土田三郎さんの随想です。

「神さま、仏さま」
日本海の庄内平野に悠然とそびえる鳥海山。その山麓の狭間に点在する寒村に私の実家が
あります。家の中には、神棚と仏壇があります。神棚には、古事記や日本書記による神の物
語による小さな神社があり、宇宙観のある神道の神さまがおられます。祖先を敬い、自然を
崇拝し、すべての命に感謝する祭祀がこの神社に納められています。神棚の下には、金箔で
装飾された仏壇があり、仏さまと観音さまがおられます。仏壇は、大乗仏教の流れを汲む禅
宗曹洞宗の様式です。こうして 18 歳まで私は、神さまや仏さま、観音さまと一緒に生活し、
あの世の存在、魂や霊の存在を意識してきました。般若心経を唱えながら、今でもそのよう
に意識しております。
あるお坊さんが教えて下さいました。「インドから東南アジアに伝わった小乗仏教は、英
語で簡単に言えば、“I go by bicycle alone.” です。一方、中国経由の大乗仏教は、“We go
by bus together.” です。」簡潔明瞭でした。同時に、仁や礼を基本とする儒教の祖、孔子
の思想は、武家社会の基本となったことも学びました。「論語」や新渡戸稲造の「武士道」
は私の愛読書の一つです。こうして神儒仏が一体化し、宇宙と共存する宗教観が、私の思想
に育まれました。
27 歳から、私はデンマークとイギリスに 6 年間滞在しました。そこは私の宗教観を激変
させる社会で、カルチャーショックを覚えました。「唯一絶対神」を標榜するユダヤ教、キ
リスト教、イスラム教などによる、他民族の宗教を拒絶する宗教戦争のためです。また、北
アイルランドでのカトリックとプロテスタントの戦いも、近年のイスラム国戦争のように悲
惨なものでした。欧州は、宗教戦争の総本山の歴史でした。
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その後、ここアメリカに来て 27 年間で、私の人生は日本と海外生活が半分づつになりま
した。今、私は男声合唱団に属し、当初は抵抗のあった讃美歌も、素直な心で歌えるように
なりました。合唱しやすい旋律が多いことが、私の心を和らげたようです。「Ave Maria」
を合唱する時は、崇高な心になります。
しかし、今まで世界で勃発している多くの戦争は、この唯一絶対神がその遠因であると、
私は思っています。他民族の神は絶対に受け入れない、自分たちの神だけが、「永遠の神、
唯一絶対神」となるためです。
人類は、人智を超える神に祈りを捧げ、神の庇護のもとで民族の繁栄を望み、神を信仰し
てきました。私は、この地球で人が生きるために信仰心は必須と思います。地域により異な
った宗教があることは、「宇宙の意志」であろうと思います。しかし、地球の人口は、2015
年度で約 73 億人です。85 年後の 2100 年には 112 億人と予測され、地球はパンク寸前です。
今や、「地球を救う」ことが、宗教もフィロソフィーも政治も含めて、人類史上の命題になり
ました。
私は、地球を救うためには、各宗教宗派が「足るを知る心」に焦点を絞って融合し、宇宙
に共存する宗教として地球を救う礎となることを、心の奥底で願っています。なぜならば、
人類に男と女がおり、動植物にも雄と雌があるように、相反するものや異質のものが融合す
ることにより、森羅万象の命が進化発展しているのが、この宇宙の意志であると信じるから
です。
「神さま、仏さま、この美しい地球をお救いください!」
JERC 理事 土田三郎・2016 年 5 月